都内屈指の自然環境〈みその幼稚園〉が、天然木の床材を選んだ理由
東京都板橋区で、豊かな自然環境を活かした教育を行われている〈みその幼稚園〉様。
1965年の開園以来、『健康・素直・創造力』を教育目標に掲げ、園内には80mトラックの運動場や芝生の園庭、屋外プール、さらには自然観察園や果樹園を備えた充実の設備を有しています。

芝生のお庭から園舎を望む。敷地には、代々受け継がれてきた立派な大木が多く残されている。
2025年に創立60周年を迎える当園では、約4年の歳月をかけて改装が実施されました。以前はリノリウムの床材でしたが、今回は新たに弊社の屋久島地杉、北海道産のセン、タモ、ニレを使用した無垢フローリングをご採用いただいております。
今回、無垢材を選ばれた理由について、主幹教諭の坂本喜則先生(以下、坂本先生)にお話を伺いました。
リノリウムは食べ物や飲み物をこぼしても手軽に掃除ができたので、無垢材に変えるのは正直すごく勇気が必要でした。でも、まわりにこれだけ自然がある環境なので、室内でも天然のものの良さを子どもたちに感じてほしい、という気持ちがずっとあったんですよね。フローリングのサンプルを見たとき、その質の高さに驚きましたが、予定していた工期と予算に納めることができ、ほっとしました。実際に使い始めてみると、そんなに心配することもなかったです。
改装後の変化や子どもたちの様子、先生方の感想など、様々なお話を聞かせていただきましたのでご紹介いたします。
“できる”が自信につながる、みその幼稚園の外遊び
都内屈指の広大な敷地を有する当園。事務棟と保育棟がT字型に配置されており、その両側に運動場と園庭が広がります。この特徴的な建物の形状は、1972年に高島平団地(板橋区を代表するビッグコミュニティ。約8,000戸の住戸を持つ。)が近隣に建設されたことをきっかけに、地域の子どもたちを受け入れるため増築を重ねた結果、生まれたものだといいます。

夏は水遊び、冬は鉄棒など、様々な外遊びを通して、子どもたちの健やかな成長を育まれている。
取材を始めてすぐ、目に飛び込んできたのは、園庭で元気よく体を動かす園児たちの姿です。すかさず「春から秋にかけては、裸足で体操しているんですよ」と坂本先生が教えてくれました。
東京に暮らす子どもたちは、外遊びの時間が全国平均より少ないと言われています。それを少しでも改善するために、週3回、体操の時間を設けました。体を動かすことは成長過程において重要ですし、幼稚園で外遊びに慣れてもらうことで「自分はできる」と自信を持てるきっかけになると考えています。

屋久島地杉フローリングがもたらした変化
改装工事は計13室、年少・満3歳児保育室を皮切りに4回に分けて実施されました。
2019年:年少・満3歳児保育室(計4室)に屋久島地杉フローリングを施工
2021年:2歳児教室・預かり保育専用保育室(計2室)に北海道産センフローリングを施工
2023年:年長組保育室(計4室)に北海道産タモ・ニレフローリングを施工
2024年:年中組保育室(計3室)に北海道産タモ・ニレフローリングを施工
また、各教室に合わせたサイズで無垢材の棚を造作し、壁の一部には屋久島地杉のパネリングを使うことで、温かみのある空間が創出されています。

施工から約5年が経過した屋久島地杉フローリング。陽の光が当たると、より柔らかな印象を受ける。
2019年に導入された屋久島地杉フローリングは、約5年の歳月を経て、当初の鮮やかな色合いから落ち着いた飴色へ。また、一般的な杉と比べて油分を多く含み耐久性に優れているため、反りや割れも見られず、園児たちの生活をしっかりと支える様子を伺うことができました。

「屋久島地杉に張り替えてから、床に直接座ることが圧倒的に増えました」と、目を細めて話す坂本先生。先生方においても、木で出来たおもちゃを自然と選ぶようになったり、園児たちを整列させるために使用していたビニールテープの使用をやめたりと、無意識のうちに自然素材との調和を意識するようになったといいます。
さらに、無垢フローリングならではの心温まるエピソードも聞かせていただきました。
張り替えたばかりの頃、屋久島地杉の節を目印に整列させたことがありました。もちろん節は均等に並んでいないので、綺麗な列にはならなくて(笑)。私たち教員は「節を目印に並ぶのは難しいか」と話していたのですが、子どもたちは「この黒い点のところね」みたいにすんなり受け入れていたんですよ。私たちは規則的に並べようとしちゃいますけど、このくらいの緩さが身近にあっても良いなと思いましたね。

園全体へ広がる無垢床の心地よさ
改装当初、床材の張り替えは年少・満3歳児保育室のみ検討されていましたが、屋久島地杉が好評だったことから、全ての教室を無垢フローリングに変更する計画を進められたといいます。
木の香りや感触は、他では代えがたいものでした。みんなにこの良さを体感してほしいと思い、すぐに設計の林さんに相談して。北海道の広葉樹をご提案いただいたのですが、タモやニレは硬さや重さが増すことで「年長さんにも耐えられる」という安心感がありましたね。年齢や空間に合わせて樹種を変えているので、子どもたちがそれぞれの木の違いを感じ取ってくれたら嬉しいです。(坂本先生)

竣工から約3年が経過した北海道産センフローリング
2歳児教室・預かり保育専用保育室にご採用いただいた、北海道産センのフローリング。広葉樹の中では軽く、柔らかな触り心地が特徴です。子どもの足裏にも優しく馴染むため、歩くたびに心地よさを感じられます。施工当初は白く明るい木肌でしたが、時間の経過とともに黄みがかった温かみのある色合いへと変化していました。

竣工から約1年が経過した北海道産タモフローリング
年長クラスにご採用いただいた北海道産タモは、堅牢さと弾力性に優れ、野球のバットにも使用されるほどの耐久性が特徴です。施工から約1年が経過した様子を確認すると、傷が少なく、子どもたちが元気に走り回ってもへこみがつきにくいことが伺えます。

竣工から約1年が経過した北海道産ニレフローリング
また、同時期に採用された北海道産ニレは、細やかな木目となめらかな質感が特徴です。経年によって、赤みを帯びた木肌の味わいが増し、空間全体から落ち着いた雰囲気を感じられました。
全教室の改装により、それぞれの年齢や活動に適した木材が取り入れられた〈みその幼稚園〉。
園全体に木の温もりが広がり、子どもたちがのびのびと心地よく過ごせる環境が整えられていることが伝わります。
みその幼稚園に根付く、自然と共生する教育
最後に、坂本先生へ今後の展望を伺うと、「いかにこの環境を維持し、活用していけるかに尽きます」という力強い言葉をいただきました。

主幹教諭の坂本喜則様
私たちは、幼稚園生活の中で「人の根っこになる部分」をいかに築いていくかを大切に考えています。この時期にどれだけ多くの経験をし、五感で感じ、学ぶことができるか。特に自然体験という点で、ここは非常に恵まれた環境です。敷地内の木々や植物を維持していくのは大変ですが、自然が与えてくれる・教えてくれるものはやっぱり大きいですよね。当園での生活を通じて、子どもたちがしっかり根を張ると同時に、一人一人の個性を伸ばしていければと思っています。
創業者が農業を生業とされていたこともあり、今もなお暮らしの中に自然が息づく生活様式や考え方が、園の教育方針に深く根付き受け継がれています。そしてその理念は、園児たちが日々過ごす環境の随所に感じられました。
また、子どもたちが安心して過ごせるよう未就園児に園を開放し、出産を控えている親御さんには見学案内をされるなど、様々な工夫を凝らされています。中には、4~5年にわたるお付き合いを経て入園されるご家庭もあるとのこと。無垢材に包まれた温かみのある室内は、今後さらに入園の決め手となっていくのではないでしょうか。
お忙しい中、取材にご協力いただいた坂本喜則様、坂本静枝様、坂本貴枝様、そして教員の皆様、園児の皆さんに心より感謝申し上げます。子どもたちが日々触れる床材に、弊社の無垢フローリングをご採用いただいたことを大変嬉しく思います。
みその幼稚園の皆様、本当にありがとうございました。

風に揺らめく園旗。お庭から見上げる空は、とても広く感じられた。
Text&Photo:yano
みその幼稚園
東京都板橋区三園1丁目30-1
https://misono.ed.jp/
設計:有限会社ダヴアソシエイツ 一級建築士事務所
東京都千代田区神田神保町2-20 M2ビル501
弊社納材商品
床:屋久島地杉フローリング MIXグレード 厚み18×巾105×長さ1950㎜
北海道産セン節無フローリング 厚み15×巾90×乱尺
北海道産タモ節有/節無フローリング 厚み15×巾90×乱尺
北海道産ニレ節有/節無フローリング 厚み15×巾90×乱尺
壁:屋久島地杉 羽目板 MIXグレード 厚み12×巾90×長さ2950㎜