築59年の建物が、高性能住宅に―フルリノベーションで、住まいの新たな形を提案する〈花春の家〉

福島県・会津若松市を拠点に、持続可能な住まいづくりに取り組む有限会社空間舎様。(以下、空間舎と略称)
創業25年目を迎えた浅沼美浩社長は、起業前から約30年以上にわたり、高気密・高断熱のエコハウスを手がけていらっしゃいます。また、『長持ちすることこそが最大の省エネルギーであり、エコロジーである』という理念のもと、住まいの価値向上に取り組まれています。

2015年からは、新築物件の一次エネルギー消費量や外皮性能の計算を必須とし、数値に基づくエネルギー効率の向上を推進。また、素材選びには全て意味があると考え、“自然に還るもの”を中心とした製品選びを行われるなど、環境に配慮した建築を追求されています。

今回ご紹介させていただくのは、空間舎のモデルハウス〈花春の家〉です。元々は住宅として建てられ、その後オフィスや蕎麦屋として使われてきた築59年の建物を、HEAT20 G3レベルの高性能住宅へとフルリノベーション。会津若松という気候の厳しい地域において、家づくりに真摯に向き合う空間舎のこれまで培った知識と経験が最大限に活用された、最先端のエコハウスです。

〈空間舎〉代表取締役の浅沼社長に、リノベーションを選択された理由を伺うと―
既存の建物を活かすリノベーションでは、解体してみないと分からない問題が多くあります。たとえば、構造の強度や断熱性能の向上など、新築と比べてもコスト面での不確定要素が大きいのも事実です。それでもリノベーションには、空き家問題の解決や環境負荷の低減、土地の歴史を守るという大きなメリットがあるんです。

また、会津若松では少子高齢化と人口減少が進み、新築市場が縮小している状況も見られます。そこで、私たちは、長い時間を刻んできた建物に新しい命を吹き込むことに価値があると考え、フルリノベーションで、地域の気候に適した高性能住宅を実現できることを証明したいと思いました。

年間降水量の約半分が雪という、日本屈指の豪雪地帯・会津若松市。この地域に適した性能を備えるため、耐候性に優れた屋久島地杉の外構材や蓄熱性能を高める自然素材、また、全窓に高性能サッシを採用された当モデルには、「ひとつでも多く、本当に良い住まいをつくりたい」という空間舎の想いが込められています。

花春の家

〈花春の家〉は、国の名勝に指定されている日本庭園〈御薬園〉の近くに位置し、豊かな植栽が広がる住宅地の一角に佇みます。

外壁は、屋久島地杉を押縁張りとしたことで陰影のある表情が生まれ、時間帯によって異なる趣を楽しめる意匠に。また、サッシの外枠には会津若松のシンボル・鶴ヶ城の赤瓦をイメージした朱色を塗装し、周囲の景観と調和しながら地域の歴史や文化を感じさせる外観に仕上げられています。

屋久島地杉 外壁材
国内年間平均降水量の2倍を上回る降雨環境で育つ屋久島地杉。特異な環境下で育つことから、一般的な杉と比べて油分を多く含んでおり耐久性・耐候性に優れている。外壁材には、芯材のみを採用し、その高い耐久性と耐候性は外構利用において最も発揮される。野趣あふれる表情と黒芯は、地杉ならではの意匠。

取材当日の朝は氷点下まで冷え込み、厳しい寒さとなりましたが、〈花春の家〉の室内は心地よい20℃をしっかりキープ。暖房は、28℃設定のパネルヒーターが弱運転しているのみ。それにもかかわらず、室内のどこにいても寒さを感じることはなく、建物の高い断熱性と気密性を実感できました。

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特に熱の出入りが大きい開口部には、エネルギー効率に優れた〈ノルド社〉の木製玄関ドアとアルミウッドサッシを採用しました。さらに、木繊維断熱材のシュタイコデュオドライや無垢の床材、天然石といった自然素材を取り入れることで蓄熱性の高い仕様とし、暖房費をさらに削減する、快適な室内環境を実現しています。(浅沼社長)

全窓に採用されたノルド社のアルミウッドサッシは、外部をアルミ・内部を木とすることで意匠と性能を兼ね備えた商品です。木枠には厳寒地で育った欧州赤松材を使用し、寸法変動の少なさを実現しています。

ノルド社のサッシは柔軟なサイズ対応が可能なため、シーンにあわせた配置ができる。

さらに、3枚ガラスと2層の空気層で構成されたLow-E複層ガラスには、熱伝導率の低いアルゴンガスが充填されているため、外部からの冷気を遮断しつつ、室内の熱を逃がしません。

また、床には北海道産のセンをご採用いただいております。アッシュやケヤキに似た明瞭な木目と、やや黄みがかった明るい色合いを持つセンは、空間を明るく演出します。広葉樹の中では比較的軽く、柔らかさを感じられるため、強度と踏み心地の良さを両立したい場合におすすめの商品です。

北海道産セン節無フローリング
規格:厚み15㎜ x 巾75/90/120/150㎜ x 乱尺

性能を整えた先にある、課題について考える

住宅性能をしっかり担保されている〈花春の家〉ですが、単なる「数値的な性能」だけでなく、その先にある「快適性」「健康」についてもこだわりが随所に感じられます。暖房設備は、輻射熱によって風を感じさせず、体への負担が少ない床暖房(土間)やパネルヒーター(室内)を設置。さらに、換気対策にも配慮し、健康的な住環境が保たれていることが分かります。

居室に設置されたVanAir。さまざまなテイストに馴染む、シンプルなデザインも魅力。

居室の建具にご採用いただいたのは、室内換気ドアのVanAir(ヴァンエアー)です。
高気密な建物では、換気が不足するとCO₂をはじめとする大気汚染物質が室内に蓄積し、睡眠不足や慢性的な疲労を引き起こす可能性があることから、これらの解決策としてVanAirを導入いただきました。

VanAir断面図

VanAirは、ドアの両面に大きな縦スリットを設けることで、室内上部に滞留しやすい湿気やCO₂、匂いを素早く排出し、居室間の換気を常時行えるよう設計されています。さらに、吸音性能も備えており、プライバシーを確保しながら室内を新鮮な空気で満たすことが可能です。

“ローン残高よりも高く売却できる、価値ある住宅を提供すること”を目指し、設計に取り組まれている浅沼社長の想いが体現されているモデルであることを、本取材でより実感いたしました。

〈花春の家〉が示す未来の住まいづくり

最後に、〈花春の家〉を通じて、今後目指したいことを伺いました。
花春の家は、住まいの新たな可能性を示す事例のひとつです。新築だけでなく、既存住宅をリノベーションすることで、持続可能で快適な暮らしが実現できる選択肢があることを、多くの方に知っていただけたら嬉しいです。私たちは、“ひとつでも多く、本当に良い住まいを建築したい”という想いを持ち続けていますので、これからも地域の気候や文化に適した住まいづくりを提案し、住環境の価値を高めていきたいと考えています。(浅沼社長)

世界の住宅先進国に学び、日本の家づくりの基準を変えることを目指して、省エネ基準義務化に向けた取り組みを積極的に推進されている浅沼社長。そして、フルリノベーションという手法を通じて、持続可能な新しい住まいの形を提示した〈花春の家〉。この家づくりへの情熱と地域に対する想いは、今後も多くの住まい手に影響を与えていくのだと感じます。

貴重なお話をお聞かせいただいた〈空間舎〉代表取締役の浅沼社長、この度は本当にありがとうございました。

設計:有限会社空間舎
福島県会津若松市南千石町4番42号
https://eco-kuukan.jp/index.html

弊社納材商品
外壁・デッキ:屋久島地杉
床:北海道産セン節無フローリング
クロス:レームファルベ
壁一部:桧パネリング
天井:アピトン合板
造作:ホワイトアッシュ巾ハギフリーボード
室内ドア:VanAir
窓:ノルド・アルミウッドサッシ
玄関:ノルド・木製玄関ドア
断熱材:シュタイコデュオドライ
透湿防水シート:ウートップハイムシールド