自然を介して暮らしを豊かにする オーガニック・スタジオの家づくり
さいたま市の住宅街。鴻沼川から水を引く用水路の遊歩道に、周辺の自然と調和した一棟の住宅が建っています。埼玉県を拠点として設計・施工を行う「オーガニック・スタジオ株式会社」代表三牧省吾様が、この場所に引っ越したのは5年ほど前のこと。用水路沿いに建つ築40年の空き家を見つけて購入。取り壊しを行い、自ら設計・施工なさいました。
家と庭、そしてインテリアまで豊かな暮らしをトータルで提案するオーガニック・スタジオ様。パッシブデザインを設計に取り入れ、耐震、省エネ、耐久性を持たせた家創りをされています。三牧様には今年5月に開催した北海道植林ツアーに参加いただき、そのご縁があって今回ご自宅にお招きいただきました。取材では三牧邸のこだわりと、オーガニック・スタジオの家創りについてお話を伺いました。
さいたま市 三牧邸
住宅密集地に建つこの家の敷地面積は約81㎡。狭いけれども外構を充実させることで実際の面積以上の広さと開放感を生む設計がされています。また少ないエネルギーで暖冷房がくまなく行き渡るようにG2+パッシブデザインを採用。そうすることでランニングコストは抑えられ、またコンパクトな動線計画により三牧様ご夫婦おふたりの日常的な暮らしやすさ、維持管理のしやすさが高まっています。
Exterior
エクステリアにはメンテナンスが容易にできることを考慮して、漆喰、信州カラマツ、そして鉄平石を使用。カラマツは経年によってシルバーグレーへと退色し、趣のある景観を生んでいます。
外構に植栽したイロハモミジは夏は新緑、秋は紅葉と街並みに彩りを加え、ご夫婦や遊歩道を歩く人に安らぎを与えています。さらに、高木の落葉広葉樹であることから、夏は2階のリビングへの日差しを遮り、冬は落葉するため日差しを取り込むパッシブデザインとしても役割を果たしています。
Interior
オーガニック・スタジオ様の標準仕様であるSE構法を取り入れた間取りは、1Fにビルドインガレージ、2FにLDK、3Fに寝室とバスルーム、そして屋上という構成。三牧邸は南西を3棟の住宅に囲まれているため日射取得が懸念されていましたが、3階から屋上へ上がる階段室の南側にハニカムサーモスクリーンをつけた大開口を設けたことで、家全体に光と熱を巡らせることが可能に。屋上には太陽熱集熱パネルとエコキュートを設置し、蓄えた熱源を再生可能エネルギーとして活用されています。
写真1枚目:特注で制作した北海道産ナラの玄関ドア。写真2枚目:3階の寝室には同じく北海道産ナラ床材を採用いただきました。
「集熱パネルやエコキュートはこれから益々いい方向に活用できると思います。まず自分で体感して、納得感や良いと感じたことは積極的にお客様へご提案しています。」と語る三牧様。「他の受け売り」でなくまず、ご自身で検証して最良の提案をする家創り。それがオーガニック・スタジオの信頼の土台になっているのだと感じました。
2階は植栽のある北東側に大開口を設けたことで開放感のあるダイニングに。その壁と天井には漆喰を、床材には北海道産のシラカバ(乱尺)を採用いただきました。施工時は赤身と白太の色合いがくっきりと分かれていたシラカバも経年変化によって濃淡が馴染み、深みのある表情へと変化しています。
経年変化した北海道産シラカバフローリング。赤身と白太の濃淡が馴染み味わいのある表情へ。
自然と暮らしを尊重した家づくり
オーガニック・スタジオ様が手掛けるプロジェクトは、周辺の地域、そして自然環境と建築の関係において「謙虚にバランスをとり馴染ませる」という印象があります。今回ご自宅に伺った際もその心地いいバランスのせいかそこにずっと居たくなるような感覚になりました。そういった空気感を生み出す仕掛けはどこにあるのか。三牧様からその経緯をお伺いしました。
「10年前、Teamnetの甲斐徹郎さんにプロデュースしていただいた分譲住宅『けやきエコヴィレッジ』*の庭や街路樹をエービーデザインの正木覚さんに担当していただき、そこで『住まいだけでなく、それを取り巻く自然環境からデザインする』という考え方に出逢いました。それをきっかけに自ら植木の勉強して、家とともに庭や外構をお客様へ提案するようになったんですよね。
三牧様と妻の洋子様。快く取材を受けていただきありがとうございました。
日本でも海外でも建築家が建てたかっこいい建築というよりも、環境や風土に影響された住宅にどうも自分は興味があるみたいで。環境を活かすというよりも、その土地に根付いていく感じ。それに家と周辺の環境が溶け合う景色は、街並みに彩りを加え、周りの人々の心にもゆとりを与えてくれますよね。そういった家創りにこれからも取り組んでいきたいと思っています。」
最後に
今回お話しをお伺いして感じたのは、まさしく弊社が唱える「心理的長寿命」。
住まいに機能性や間取りといった物理的な要素を重視することも大切ですが、自然の摂理に従って庭の木々や自然素材が美しく変化していく中で暮らすことは、建物への愛着を生み、ひいては人生(心理的)に豊かさを与えます。
例えば、疲れて帰ってきた時に緑が近くにあると植物が与えるエネルギーを無意識に感じてほっと安心することがありますが、そういうこともきちんと考えられた家創りを三牧様はなさっています。それはオーガニック・スタジオが手掛ける住宅が、自然と人の暮らしを同じように尊重しどちらにも平等に『優しい恩恵』をもたらしているからではないでしょうか。
北海道の植林ツアーに続き取材を快く受けていただいた三牧様本当にありがとうございました。
TEXT:Hieshima
PHOTO:Organic Studio/Yano
設計・施工
オーガニック・スタジオ株式会社
〒338-0012
埼玉県さいたま市中央区大戸6-27-5
採用商品
北海道産シラカバ節無15×120×乱尺
北海道産ナラ節無15×120×乱尺
北海道産ナラ特注玄関ドア
イペ20×105×2100/3000
*けやきエコヴィレッジについての詳細は下記URLよりご参照ください。
https://teamnet.co.jp/work2021/11/