足し、引きで実現する簡潔で温もりのある木の空間
福島の須賀川市。松尾芭蕉が「奥の細道」の行脚中にこの地を訪れ「風流の初やおく田植うた」と詠んだことから風流始まりの地として知られています。そんな風情ある街の住宅地にナチュレウォールを全面に纏ったS様邸があります。
この住宅を手がけたのは、岩手を拠点とする設計事務所 寿久住宅創造設計代表の新沼 創 様。有限会社ラ・ビーダ(福島)様(以下、敬称略)の住宅部門に在籍後、独立。2022年2月に現事務所を設立なさいました。寿久住宅創造設計は、家具が源流にあるラ・ビーダの『一台のテーブルから始まる物語』といった住まいの考え方を継承しながら、伝統を継ぐ大工、木工職人と共に『次世代に繋げることのできる』注文住宅づくりをなさっています。
今回の取材では、ラ・ビーダ在籍時に設計されたS様邸(2021年竣工)と寿久住宅創造設計の家づくりについて新沼様へお話を伺いました。
*寿久住宅創造設計(URL)
須賀川市のS様邸 –EXTERIOR–
子育てを終えた建主が、ゆっくりと過ごすための戸建住宅の計画。
敷地の両側を住宅に挟まれているものの、前面道路に面する駐車場スペースを「前庭」に仕立てたことにより、建物の内と外を繋ぐ開けた空間が演出されています。そんな美しい草木が取り囲むS様邸の外壁に、ナチュレウォールT&Gパネルをご採用いただきました。
これまで、将来的なメンテナンスを考慮して木製外壁を使用してきたと語る新沼様。今回お選びいただいたナチュレウォールもまた、ウエスタンレッドシダーが保持する寸法の安定性、耐久性に共感いただいたことから建物の全面に採用いただくことに。さらに、赤褐色から淡黄色をした木肌のグラデーションが、チークの玄関ドアと木製サッシの木枠に馴染み、木によるシームレスな外観を実現しています。
–INTERIOR–
玄関の扉を開くと、目の前に広がるのは簡潔で温もりのある木の空間。
漆喰の天井、壁を除く大半には北海道産のクリ、三重の桧等の木のインテリアが設えてあります。
家全体の木視率が70%を超えていながら、違和感を抱かせない仕掛けはどこにあるのか。
その理由を新沼様へ伺うと、
”ラ・ビーダは“家具から考える家創り”をスタンダードにしているため、S様邸も同様にお施主様が長年愛用されていたカントリー調の家具から着想を得ました。英国のコロニアル様式が起源のカントリー調に対して、ラ・ビーダはどちらかというと北欧・デンマークのデザインや暮らし方を尊重していて。それらをいかに調和させるか悩みましたが、両者の歴史を辿っていくとどちらのデザインも「シェーカー家具*」が源流であることが分かったんです。なので今回は、木材を用いてシンプルで美しいシェーカーデザインとラ・ビーダの良さを足し引きした空間設計を行いました。”
間取りは、来客の多いS様宅のライフスタイルを視野に入れ、リビングとキッチンからなるパブリックな空間1階に、バスルームとベッドルームからなるプライベートな空間を2階に配置することに。
また「パブリックスペースにはヘリンボーンを使用したい」と奥様よりご要望いただいたことから、1階の床全面に北海道産クリを用いて実現いたしました。
今回、数ある広葉樹シリーズの中から『クリ』をお選びいただいた経緯を新沼様に伺うと、
”ラ・ビーダの事務所の2階に中村好文先生が設計、デザインされたキッチンスペースがあるんですけど、そこの床材にも、他の建築にも先生がよくクリ使用されていたというのもきっかけのひとつですね。家具を作っていると分かるんですけど、クリって広葉樹の中でも軽いんですよね。軽い上に足触りがとても暖かい。あとは水に強いとか、乾燥してしまえば狂いも少ないので。広葉樹で一押しといえばクリになりますね。”
新沼様が語られる機能性や耐久性に加えて、シェーカー+北欧・デンマークのデザインを尊重した造作家具にも融合する北海道産のクリ。優れた木材であることから日本では縄文時代より遺跡や住宅の基礎に使用されるなど歴史が深く、日本人にとって愛着のある樹種のひとつです。
S様邸では、このクリが精神的な基調音となり、そこに導入されたシンプルなインテリアデザインと見事に調和をしたことで「簡潔で、温もりのある」二元的な空間を表現していているように感じました。
一度予算調整の段階で取止めとなったヘリンボーン。「竣工がSご夫妻の銀婚式に当たるので奥様にプレゼントしたい。」ということで密かに施工し、引き渡しの際にサプライズでお披露目がなされたのだとか。素敵な思い出に商品を通して携わらせていただきありがとうございます。
家づくりについて
22年2月に独立され、1周年を迎える寿久住宅創造設計。
新沼様へ家づくりに対する心境を伺いました。
”以前、あるお施主様に『次世代に繋げるための家を建てたい』とご依頼をいただいたことがあって。そのときに、次の人が住む場合、いろんな形で引き継ぎがあると思うけど、メンテナンスがいかに継続的にできるか、次の住まい手が手を加えることができるかという判断基準で、建築に使う素材も、家具も選ぶようになりました。
昨今のコスト高もあり次世代へ残すことを考えないで住宅を作ろうと思えば作れるけど、それはポリシー反するというか。そんな自分が設けた基準によって葛藤もあるしまだまだ藻掻き続けているけど、素晴らしい技術を持った大工さん、職人さんたちと共に未来へ継承できる本物の家、家具づくりにこれからも直向きに取り組んでいきたいと考えています。”
新沼様が在籍していたラ・ビーダは、奥会津や北海道大雪山系の広葉樹を使用した木製家具のプロデュースを長きにわたりなさってきました。ラ・ビーダが手がけるものは全て、量産されるものとは違う、作り手の美意識やこだわりが活かされています。
寿久住宅創造設計は、そのノウハウとネットワークを活かし、東北各地の大工・職人と共に次世代に繋ぐ住まいを創造。そしてその循環性を木工技術の継承と発展に還元することを目指されています。
市場やトレンドに影響されず、作り手が心から満足する家は、必ずその価値に共感する住み手がいるという潔い信念が、新沼様の家づくり、ものづくりの神髄にあるのだと今回の取材を通して感じました。
取材に際しご協力いただいた新沼様、素敵な時間を誠にありがとうございました。
*アメリカに存在した宗教団体であるシェーカー協会が作り出した家具のスタイルを指す。シンプルで機能的なデザインを好み、実用性と美しさを兼ね備えた家具を製造し、マルセル・ブロイヤーや、ボーエ・モーエンセンに影響を与えている。
TEXT: Hieshima
PHOTO:有限会社ラ・ビーダ
プロデュース・家具
有限会社ラ・ビーダ 渡部信一郎様
〒963-0541
福島県郡山市喜久田町堀ノ内字地田東15-2
024-959-3333
設計
有限会社ラ・ビーダ 新沼 創様(現 寿久住宅創造設計)
〒024-0082 岩手県北上市町分1-363-4
niinuma.soh@gmail.com
090-2885-9926
施工
吉田建設株式会社様
カーテン
レントウトア・ファニチャーアンドファブリック様
庭
庭泉様
建築情報
竣工: 2021 年8月
敷地面積:297.58 ㎡(90.02 坪)
延床面積:92.74 ㎡(28.06 坪)
UA値:0.30W/㎡K
Q値:0.97W/㎡K
C値:0.10 ㎠/㎡
弊社納材商品
外壁・軒天:ナチュレウォール T&Gパネル 節有り(18X128mmX6F~14F乱尺)
デッキ:レッドシダーデッキ材(節有)4面ケズリ アッセンブル(40x90x3048mm)、(90x90x3048mm)
フローリング:北海道産クリ節無ヘリンボーン 無塗装(15x75x450mm)
窓:ノルドサッシ